クレームとは?そして、コールセンターで起こる課題。

目次
【要約】クレームとは、お客様の「こうあるべき」という事前期待と、実際に提供された商品やサービスとのギャップから生まれる主張
クレームとは?:
クレームとは、お客様の「こうあるべき」という事前期待と、実際に提供された商品やサービスとのギャップから生まれる主張です。たとえば「この価格ならこの内容だろう」といった思いと現実にズレがあると、不満が生まれます。コールセンターにおけるクレームも、そうしたズレがきっかけで起こり、すべての顧客に共通する「期待」の存在が根底にあります。
通話前のクレーム・通話中のクレーム:
クレームには、電話をかける前から不満があるケースと、通話中の応対が原因で怒りに発展するケースがあります。事前に配送遅延などで不満を持っている顧客は、落胆や困惑から怒りが生まれることもあります。一方、丁寧でない応対や複数の転送でのたらい回しは、通話中に新たなクレームを引き起こします。つまり、初期対応の質や組織設計の不備が、顧客の怒りを引き出す引き金になるのです。
時代で変わる、クレームの質:
最近のクレームは、FAQやチャットでの自己解決を強いられた末、ようやく辿り着いた電話口で爆発することもあります。これは、顧客が本来期待していた「すぐに解決したい」というニーズと、企業の「非対面化戦略」とのズレから生じるものです。こうした構造的な設計ミスこそが、現代のクレームの質を変えており、応対者にはその背景にある顧客心理を丁寧に読み解く力が求められています。
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※本編は“WOWCOMポッドキャスト”をテキスト化した内容です。またサムネイル画像およびYouTube内の画像にはDALL·E 3を使用しています。
クレームを単なるトラブルではなく、サービス改善の起点
「クレーム応対が大事なのは分かるけど、結局どうすればいいのか?」
コールセンターにおけるクレームは、単なる「怒り」や「文句」ではなく、お客様の“期待と現実のズレ”から生まれる大切な声です。
加えて、その声の背景には、企業側のサービス設計や応対品質に関する構造的な問題が隠れている場合もあります。
本稿では、クレームが発生する本質的な理由から、通話前・通話中に起こる応対の落とし穴、さらにはAI時代におけるクレームのあり方まで、現場の視点で解説します。
クレームを単なるトラブルではなく、サービス改善の起点と捉え、ファン化につなげるための考え方とヒントをご紹介します。
クレームとは?
━━━そもそも、クレームとは何ですか?
クレームとは「お客様が持っている事前の期待」と「実際に提供された商品やサービス」が異なったときに生じる、お客様の主張を指します。
WOWOWコミュニケーションズではクレーム応対研修を提供しており、本研修にて上記の定義をしています。
━━━つまり、前提としてお客様の中には事前期待があるということですね。ちなみに、その事前期待とは何でしょうか?
お客様が商品やサービスに対して持っている期待値のことです。
たとえば、「この金額なら、このくらいの内容だろう」とか、「今日はこのサービスでこういうことがしたい」といったことです。そうした期待値を指します。
つまり、持っていた期待と実際がズレていたために、そのギャップがクレームという形で現れます。
━━━ではここから「コールセンターにおけるクレーム」について、伺っていきます。コールセンターで発生するクレームには、どのような種類や傾向がありますか?
日々さまざまなセンターで、多様なクレームが発生しています。
クレームの種類については、各センターで分類などされているかと思います。ただ、基本的には「商品やサービスに対して思っていたのと違う」と感じたときにお客様の主張として現れますので、これについてはどのコールセンターでも共通ではないでしょうか。
例えば最初は通常のお問い合わせだったものの、オペレーターの態度や言葉遣いが不適切だったために、クレームに発展することもあります。実際に「その対応は何ですか?」とお客様から指摘され、オペレーターの応対が原因で途中からクレーム化するケースもあります。
━━━今のお話だと、時間軸としては電話をかける前からすでに期待とのズレがあるパターンと、話す中でズレが生じていくパターンがあるということですね。
通話前のクレーム、通話中のクレーム。
━━━ではまず、事前期待とのズレがあってお電話をいただいた場合、お客様はどのような心持ちなのでしょうか?
いろいろなケースがありますが、基本的には「困っている」とか「残念に感じている」といった心情でお問い合わせくださるお客様が多いでしょう。
━━━それは「怒り」とは違うのですか?
それが「怒り」として表に出ているケースもあります。
たとえば、明日使いたい商品があり、今日届くようにインターネットで購入したものの、届かなかったという場合。
「約束と違うじゃないか」とお怒りになることがあります。ただ、その怒りの背景には、「この日に必要だったから、間に合うように注文したのに届かなかった」という期待とのズレによる残念さや落胆が根底にあるのかもしれません。
━━━今のお話は「そもそもなぜ間に合わなかったのか?」という疑問も湧いてきますが、つまりクレームというのは、少し飛躍するとサービス改善に活かせる声でもあるということでしょうか?
はい、おっしゃる通りです。クレームの中には、サービス改善に役立つヒント、つまり貴重なご意見が多く含まれています。そうしたクレームをしっかりと受け止めて、今後のサービス改善に活かしていくことは非常に大切です。
━━━事前のズレについては想像がつきやすいのですが、今のお話で気になったのは「話していく中で徐々にクレーム化するケース」です。これはどういった要因があるのでしょうか?
要因として多いのは、オペレーターの応対があまり良くなかったケースです。
たとえば、言葉遣いや態度が適切でないなど、お客様が不快に感じるような対応があると、途中からクレームに発展することがあります。
また、オペレーターの応対自体に問題がなくても「サービス自体が手間がかかる」「わかりにくい」「面倒」といった場合には、その不便さに対してクレームが出ることもあります。
さらに、たらい回しにされるといったケースもあります。
━━━「解決しない」ということですね?
はい。たとえば、お客様が「こういうことで困っています」とお問い合わせくださった際に、「それは当部署の担当ではないので、別の担当におつなぎします」と転送され、さらに転送先でまた一から状況を説明し直さなければならない。
そしてそこでも「こちらの担当とは少し違いますね」と言われ、さらに別の部署に回される……といったように、何度も説明を繰り返させられるような対応が続くと、お客様の不満が蓄積し、クレームに発展してしまうのです。
━━━少しクレームの話から逸れるかもしれませんが、なぜ、そうなってしまうのでしょうか?
それは、コールセンターやサービス自体の設計、適切な窓口の不備、問い合わせルートの不明確さ、あるいはウェブサイトの情報に問題があるなど、さまざまな要因が複雑に絡んでいます。
原因をひも解いていくと、いろいろな構造的課題が見えてきます。
━━━つまりクレームとは、サービス全体の設計の歪みから生まれるものでもある、ということでしょうか?
そういうケースもあると思います。
お客さまとしては「電話すればここで解決してもらえるだろう」という事前の期待があります。そこでたらい回しにされると「ここで解決してくれると思っていたのに!」というギャップが生じ、それがクレームとして表に出てくるのです。
━━━「ここで解決されるであろう」という事前期待もあるということですね。事前期待には種類があるという理解でよいですか?
はい、事前期待にもさまざまなタイプがあります。
時代で変わる、クレームの質。
━━━お電話のやりとりの中で、「なぜこの方はクレームを持つに至ったのか」を読み解くのは難しくありませんか?
そうですね、だからこそしっかりとお話を伺う必要があります。お客様がどのような経緯でこのお電話に至ったのか、どのような出来事があったのかを丁寧に聞き取ることが大切です。
━━━時代の流れの中で、昔と比べてクレームの質や種類、あるいは行き先に変化を感じることはありますか?
変化はありますね。たとえば現在、コールセンターは人員を潤沢に配置することが難しくなってきており、企業としてはできるだけ電話対応の件数を減らしたいという傾向があります。
そのため、お客様には極力電話をかけずに自己解決してもらうような流れが増えています。たとえば、ウェブサイトのFAQを充実させたり、チャットボットを用意して、そちらでの解決を促すような設計にしている企業が増えています。
しかし、お客様の中には「面倒だからすぐ電話して直接話して早く解決したい」という期待を持っている方も少なくありません。そういったお客様に対して、自己解決を強いるような仕組みを提供すると、結果的に不満が募り、クレームに発展することがあります。
━━━なるほど、お客さまに解決を強いることが、新たなクレームを生む原因にもなっていますね。
例えば、チャットボットに聞いても的外れな回答しか返ってこない、ウェブサイトを見ても自分の知りたい情報がどこにあるのかわからない。
そうした中で、ようやく見つけた電話番号にかけてきたときには、すでにイライラが積もっており、最初から温度感の高いクレームとして電話が入る。こうしたケースは、今の時代ならではです。
━━━蓄積された不満が、最終的にオペレーターのところに届くわけですね。
そうですね。すでに温度感が高まった状態でオペレーターにつながる、というケースが増えています。また、お客さま自身もFAQやチャットなどである程度情報収集をされていて、その上で「こうだ」と主張される場合も多くなってきています。これは現代ならではの傾向です。
━━━ 一方で、こうしたクレームの本質を捉えて、クレーム応対の解決に向けた考え方や手法はありますか?
特別に真新しい手法があるわけではありません。
ただ、クレームのご指摘をいただいた際に、真摯に丁寧に対応するというのが、唯一にして最も大切なアプローチです。それは時間も手間もかかりますが、本質的に必要な姿勢です。
というのも、不満を持ったお客様の多くは、何も言わずに他社に乗り換えてしまうと言われています。そのような中で、わざわざ不満を言ってくださるお客様というのは、実は非常に貴重な存在です。
正当な内容のクレームであれば、それは企業にとってありがたい声であり、見方を変えれば「熱量の高いお客様」、言い換えれば「ファン」と言えるかもしれません。
そうしたお客さまに対して、クレームの内容をしっかりと伺い、その心情を丁寧に受け止めて対応していくことが重要です。そうすることで、最初はお怒りだったお客様が、「ちゃんと対応してくれてありがとう」と言ってくださることがあります。
たとえば、「すごく丁寧に話を聞いてくれたし、いろいろ提案もしてくれて、気持ちが伝わった。だから引き続き御社のサービスを使い続けます」と言っていただけるような着地になることもあります。
むしろ、最初はクレームとして始まったお電話でも、最後にはそのお客様がさらに熱量の高いファンになってくださる、ということもあり得るのです。
そういう意味でも、1件1件のクレーム対応を丁寧に行うことがとても大切ではないでしょうか。
AIの進化で、クレーム応対はテクノロジーがやるのか?
━━━生成AIが進化する中で、クレームという概念はどう変化していくと思われますか?私は困ったとき、企業のサイトではなく生成AIに聞くことが多いです。まだ始まったばかりの技術ではありますが、品質管理の観点から今後のクレーム応対についてどのようにお考えですか?
AIの進化スピードにもよりますが、仮にAIが人間のようにお客様の気持ちを汲み取り、適切な応対ができるようになるならば、クレーム応対もAIが担えるようになる可能性はあるのではないでしょうか。
━━━その可能性を秘めているということですね?
はい。技術がそこまで到達すれば、実現は可能だと思います。実際にそれがいつになるかは予測できませんが、十分あり得る未来です。
━━━そもそも、電話が生まれる前のクレーム応対は対面か手紙でしたよね。それが電話になり、デジタル化し、今やAIにも届くようになった…でも、人間である限り「事前期待とのズレ」はきっと変わらないですよね。
そうですね、クレームが生まれる本質は、人間の「期待」と「現実」のギャップです。それはどれだけ手段が進化しても変わらないと思います。変わるとすれば、そのギャップをどう受け止め、どう対応するか。それが人間なのかAIなのかは、技術の進化次第でしょう。
まとめ:クレーム対応の本質と現場で起きている変化
クレームの正体は“期待とのギャップ”
クレームはお客様の期待と、提供されたサービスや商品との間に生まれたギャップによって引き起こされる主張であり、怒りや不満の裏には「困っている」「残念だった」という感情がある。
応対中にクレームへと変化する要因が存在
初期は単なる問い合わせでも、言葉遣いや態度、あるいは煩雑なオペレーションにより、応対中にクレームへと発展するケースがある。たらい回しや窓口の不明確さは顧客の不満を増幅させる。
時代の変化がクレームの質を変えている
自己解決を前提とした設計やAI・チャットボットの普及により、顧客の不満は蓄積しやすくなっている。人手を減らす流れの中で、顧客の声が届きづらくなる一方、声をあげる顧客はより貴重な存在となっている。
クレームは「不満」ではなく、サービス改善とファン化のきっかけになりうる“贈り物”として丁寧に向き合うことが、今後の顧客接点の質を左右します。
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