【実践編】クレーム応対研修は、何をするのか?

目次
【要約】心理的ニーズへの理解を軸に、共感から解決提案までの基本ステップを実践形式で学ぶ
まずは、座学。ただ、ポイントは講師が一方的にならないこと
クレーム応対研修は、前提知識を学ぶ座学から始まりますが、講師が一方的に話すのではなく、問いかけや参加者同士の意見交換を通じて理解を深めていきます。たとえば「クレームは収めるものか、収まるものか」といったテーマを用いた対話を通じて、固定観念に気づき、自ら考える姿勢を促します。
クレーム応対4つのステップ
研修では、クレーム応対に必要な基本動作を4つのステップに分けて解説しています。①お客様の心情への共感、②事実確認、③解決策の検討と提案、④お詫び・お礼での締めくくりという流れで構成され、感情と事実の両面に丁寧に向き合う対応力を身につけることを目的としています。
クレーム応対研修で最重要なことは?
応対の最終目的はクレームの処理ではなく、お客様との関係継続です。そのため、最も重要なのは「心理的ニーズ」への誠実な対応です。人間同士のコミュニケーションであることを前提に、感情に寄り添い、共感と傾聴を通じて“収まる”状態をつくる力を養うことが研修の核となっています。
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※本編は“WOWCOMポッドキャスト”をテキスト化した内容です。またサムネイル画像およびYouTube内の画像にはDALL·E 3を使用しています。
クレーム応対研修は、具体的に何をするのか?
クレーム応対研修と聞くと、座学で理論を学ぶケースが多いでしょう。しかし、現場では「意味はわかっていても、うまく対応できない」ことが本質的な課題です。
WOWOWコミュニケーションズのクレーム応対研修は、ただ知識を詰め込むのではなく、参加者の気づきを促す実践型を採用。講師の問いかけや意見交換を通じて、対応スキルを体感的に習得します。
本稿では、クレームの構造理解から応対の4ステップまで、研修内容の全体像を解説。「クレームを“収める”のでなく、“収まる”状態をどう作るか」の具体的ステップをご紹介します。
まずは、座学。ただ、ポイントは講師が一方的にならないこと
━━━WOWOWコミュニケーションズのクレーム応対研修では、具体的にどのようなカリキュラムを実施されているのでしょうか?
当社のクレーム応対研修では、まず最初にクレーム応対に臨む上で必要となる知識についてお伝えしています。
その後、クレームの構成要素について解説し、最後にクレーム応対の基本的なステップを4つに分けてご紹介する、という構成になっております。
研修の内容
- クレーム応対に臨む上で必要な前提知識
- クレームの構成要素
- クレーム応対4つのステップ
━━━「臨む上での知識」というのは、これまでに教えていただいたマインドについてでしょうか?
はい、たとえば「クレームは個人に向けられたものではなく、企業に向けられたものである」とか、「クレームをゼロにすることはできない」といった前提となる知識を共有しております。
重要なマインドは「クレームは“収める”ものではなく、“収まる”もの」であると捉えること
クレームをゼロにすることはできない。
クレームは、顧客の期待とサービス提供のギャップから生じるものであり、どれだけ丁寧に対応しても完全に防ぐことはできない。重要なのは、オペレーター個人の責任と捉えず、「起こり得る前提」で業務に臨むことで、精神的な負担を軽減し、冷静に対応できる土台をつくることにある。クレームは“収める”ものではなく、“収まる”もの
クレームを「早く終わらせたい」と焦ると、お客様の気持ちが無視されたと感じさせ、かえって感情が高ぶる場合がある。クレームは一方的に解決するのではなく、相手の心理的ニーズに寄り添いながら対応することで、自然と落ち着いていくものであるという前提を持つことが大切である。遠回りに見える応対こそが、実は最も近道である。
クレームに対して丁寧に話を聞き、共感的に対応することは一見遠回りに思えるが、結果的に最短で問題解決に至る手段となる。焦って処理を急ぐことで顧客の怒りを増幅させるよりも、誠実に向き合う姿勢が信頼を生み、スムーズな着地につながる。時間をかける価値のあるプロセスである。
━━━それらの前提知識は、座学形式で行われるのでしょうか?
基本的には座学形式で進行します。
ただし、講師が一方的に話すだけではなく、随所で参加者に問いかけを行ったり、参加者同士で意見交換をしていただいたりしながら、理解を深めていくスタイルを取っています。
━━━参加者同士の意見交換では、具体的にどのようなお題が出されるのでしょうか?
たとえば、「クレームをおさめることはできるのか?」といったテーマがあります。
この内容も知識の一部として最終的にはお伝えしますが、当社の考え方としては「クレームはおさめるものではなく、収まるものである」という前提を持っています。
その結論を伝える前に、まずは参加者同士で「クレームはおさめるものか、収まるものか」といったテーマについて自由に意見交換をしていただく時間を設けています。
━━━実際に参加される方の多くは、やはり「クレームは収められるものだ」と考える方が多かったりするのでしょうか?
半々くらいですね。
もちろん、「収める」とは具体的にどういうことなのか、「収まる」とは何を指すのかという定義によって、意見は大きく変わってきます。
ただ、あえてその定義は最初の時点では提示せず、まずはイメージベースで自由に話していただくようにしています。
そのようにすると、やはり意見は分かれます。
━━━なるほど。最初の「前提となる知識」の部分は座学形式ながらも、問いかけや参加者同士の意見交換を通じて、前提知識を定着させるのが最初のステップということですね。
クレーム応対4つのステップ
━━━次に「クレームの構成要素」とは、具体的にどういった内容なのでしょうか?
これは、「心理的ニーズ」と「物理的ニーズ」の2つに関してです。
クレームはこの2つの要素で必ず構成されているということ、そして、その中でも特に「心理的ニーズ」のほうが重要であるため「まずは心理的ニーズを丁寧に対応しましょう。」ということをお伝えしています。
━━━それは「【マインド編】クレーム応対研修は、何をするのか?」にて話てくださった、たとえば「テレビを期待して購入したのに電源がつかなかった:というクレームのケースで、まず「ご期待に沿えず申し訳ございません」とお伝えしてから始める、というようなお話とつながる内容ですね。
はい、その通りです。
━━━例えば「テレビがつきません。どうやったらつくんですか?」という問い合わせに対して、「これはクレームかもしれない…」と思い、まず「説明書の何ページをご確認いただいて…」と案内し、「こうしてみてください」と対応する。これは“収めようとしている”対応ですよね。
そうです。まさに「早くクレームを解決して終わらせたい」という思いから、オペレーターが“収めよう”としている状態です。
━━━では、「テレビがつかない」といった問い合わせに対して、“収める”のではなく、“収まる”ようにするには、どうすればよいのでしょうか?
オペレーターができることは、お客さまの「心理的ニーズ」にしっかり寄り添うことです。
具体的には、まずお客さまに対して丁寧にお詫びの言葉を述べることから始まります。
お客様の温度感にもよりますが、お詫びの一言だけで「全然いいですよ」と受け止めてくださる方であれば、そのまま物理的ニーズの解決に進んでも問題ありません。
しかし、お客さまが強い怒りを抱えている場合、最初にお詫びを述べただけでは怒りが収まらないこともあります。
その場合には、まずお客様のお話にしっかり耳を傾け、「理解しようと努める姿勢」を持つことが重要です。
お客さまのお話を丁寧に聞き、適宜お詫びの言葉を挟みながら、感情ごと受け止めていくこと。それが「収まる」クレーム応対につながります。
━━━「物理的ニーズ」と「心理的ニーズ」は「【マインド編】クレーム応対研修は、何をするのか?」にて解説して頂いたので、今回は割愛します。
━━━では「クレーム応対4つのステップ」について、具体的にどのようなステップを踏んでいくのか教えてください。
クレームのお電話をいただいた際に踏むべき基本ステップとして、4つの段階をお伝えしています。
クレーム応対4つのステップ
- お客様の心情に共感すること
- 事実確認
- お困りごとへの解決策の検討と提案
- お詫びやお礼の言葉で締めくくる
ステップ1:お客様の心情に共感すること
ステップ1は、お客様の心情に共感することです。
まずはお電話をくださったお客さまのお気持ちを想像し、心の内にある思いや不満をきちんと理解しようと努め、共感を示すことが最初のステップです。
このステップを丁寧に行うことで、仮に最初は強い怒りを抱えていたお客さまであっても、こちらが真摯に話を聞き、気持ちに寄り添って共感することで、徐々に感情が落ち着いてくることが多いです。
ステップ2:事実確認
ステップ2では、事実を確認します。
お客さまの感情がある程度落ち着いた段階で、いつ、どこで、何があったのかといった具体的な状況について冷静に話していただけるようになるため、その内容をしっかりとヒアリングします。
ステップ3:お困りごとへの解決策の検討と提案
そして、事実の確認ができたらステップ3に進みます。
ここでは、お客様の困りごとに対してどのような解決策を提示するかを検討し、提案します。たとえば、テレビを購入したものの映らなかったという場合であれば、「新しい製品と交換させていただきます」といった提案が考えられます。
もちろん、解決策はケースごとに異なりますが、状況に応じた最適な提案を行うのがこのステップです。
ステップ4:お詫びやお礼の言葉で締めくくる
そして、最後。ステップ4では、お詫びやお礼の言葉で締めくくります。
たとえば、解決策を提案し、それにご納得いただけた場合には、「この度はご不便をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」といった謝罪の言葉を添えて、お電話を終了します。
以上が、研修でお伝えしている4つの基本ステップとなります。
━━━2点目の「事実確認をする」という部分で、「いつ」「どこで」「何が」といった情報を確認するとのことでしたが、事実確認の質問というのは事前に用意しておくものなのでしょうか。それとも、ある程度カテゴリーはあっても、質問自体はその場で柔軟に対応していくような形なのでしょうか?
事前に質問を準備しておく場合ももちろんありますが、必ずしもそれが必須というわけではありません。
端的に言えば、「何が起きたのか」「お客様が何に困っているのか」を具体的に把握できれば問題ありません。
確認すべき情報としては、いわゆる「いつ」「誰が」「どこで」「何を」「どのように」といった基本的な項目になります。
そういった点を丁寧にお伺いし、正確に状況を把握することが中心になると考えています。
━━━なるほど。クレームではまず、状況を話してもらえる状態をつくるステップ1が重要で、そのうえで事実確認のステップ2に進む。ステップ3の「解決策の提示」は、サービス内容により異なると思いますが、提案内容はツリーマップのように整理されているのか、または現場判断なのでしょうか?WOWCOM Collegeとしての準備や注意点があれば教えてください。
気を付けるべき点として挙げられるのは「解決策を提案できない場合」への対応です。たとえば、衛星放送WOWOWの場合、番組の出演者に関するご意見をいただくことがあります。
「今出演しているこの人があまり好きではないので、変更してほしい」といったご要望があったとしても、当然ながらそれは実現が難しい内容です。
このような場合、具体的な解決策を提示することはできません。その際には「お客様のご意見をお預かりして、担当部署に申し伝えます」とお伝えする形になります。
ただし、このフレーズを早い段階で使ってしまうと、かえってお客さまの感情を逆なでしてしまう可能性があります。
先にお話ししたステップ1やステップ2のプロセスをきちんと踏み、お客様の心情に寄り添い、事実を丁寧に確認した上で、それでもなお解決策の提示が難しい場合に限って、このフレーズを使用するのが望ましいです。
問題となるのは、心情理解も事実確認も十分でないまま、早く通話を終えたいという理由で「お客さまのご意見をお預かりします」といった言葉を使ってしまうケースです。
お客さまとしては、「ろくに話も聞かずに、何が分かったというのか」「早く切りたいからそう言っているだけではないか」といった不信感を抱きやすく、かえって状況が悪化することがあります。
そのため、「お客さまの貴重なご意見をお預かりします」という言葉は、あくまで丁寧に対応を進めた末に、やむを得ず提案できる解決策がない場合にのみ使うべきである、という点に注意を促しています。
━━━確かに、つい使ってしまいそうですね。
どうしても人間の心理として、クレームの電話は早く終わらせたいという思いが自然に生じてしまうものです。
その結果、丁寧なヒアリングを省略してしまい、「貴重なご意見をお預かりします」といった言葉で済ませてしまいがちです。
しかし、そのような対応ではお客様に強い不満が残るため、注意が必要だと感じます。
━━━個人的にとても興味深いと思ったのは「電話を早く切りたい」という衝動は、もはや動物的な本能に近いものであり、抗うことが難しい感情だということ。だからこそ、WOWCOM Collegeのような場で「こう応対すると失敗する」というパターンを事前に共有しておくことが非常に意義深いですね。
オペレーターはクレームのお電話をいただいた際に、「どう対応すればよいのか分からない」といった不安や恐れが、そのまま「早く切りたい」という衝動に繋がっているのかもしれません。
だからこそ、クレーム応対研修で正しいクレーム応対の方法を学ぶことで、そうした不安感が少しでも和らぎ、より適切な対応ができるようになる可能性が高まるのだと思います。
━━━繰り返しになりますが、人間として本能的に抗えない部分というのは確かに存在すると思います。だからこそ、「カレッジ」という名のもとに、体系的に学ぶ機会を設けることには意味があると感じます。
クレーム応対研修で最も重要なことは?
━━━最後の4ステップにおいて「お詫び」と「お礼」で締めくくると仰いましたが、なぜ、最後にお詫びやお礼の言葉を添えるのでしょうか?
最終的にはお客さまに「きちんと対応してもらえた」と感じていただいた状態で、電話を終えていただきたいという想いがあるからです。
クレーム応対のゴールは、クレームを処理することではなく、お客さまに引き続き商品やサービスをご利用いただくことにあります。
つまり、電話が終わったときに「今後も使い続けてもいいかな」と思っていただけるかどうかが重要です。
そのためには、少しでもお客さまに心地よく通話を終えていただきたい。そういった理由から、最後にお詫びやお礼の言葉を添えるようにしています。
━━━確かに、以前お伺いした「クレーム応対研修の目的・ゴール」とも一致しますね。あくまでゴールは「ご愛顧をいただくこと」であって「処理して終わること」ではない。だからこそ、ステップ3で落ち着いたからといって油断せず、ステップ4でしっかりと締めることがゴール到達には不可欠ということですね。
正直なところ、そこまで明確にロジックで設計しているというよりは、これまでの対応経験を通じて自然と培われてきた部分も大きいと思います。
ただ、やはり実感として、最後にお詫びやお礼の言葉を伝えた方が、お客さまがより良い印象で通話を終えてくださる傾向がある、という経験則があるのは確かです。
━━━最後の質問になります。ここまでのご説明を踏まえて、改めて、日々実施されているクレーム応対研修において、最も重要だと感じる点を一つ挙げるとすれば、どこになるでしょうか?
いろいろありますが、あえて一つ挙げるとすれば、「心理的ニーズ」と「物理的ニーズ」、とりわけ「心理的ニーズ」に正しく丁寧に対応することが最も重要だと考えています。
最終的には、やはり「人間同士のやり取りである」という点を忘れずに向き合うことが、あらゆる場面で大切になると思います。
まとめ:【実践編】クレーム応対研修は、何をするのか?
- 参加型の座学で理解を深める
研修の導入は座学形式だが、講師の一方通行にならず、問いかけや意見交換を通じて参加者の自発的な気づきを促す構成となっている。抽象論ではなく、自ら考え行動する力を養う設計が特徴。 - 4つのステップで応対スキルを体系化
クレーム応対を「共感→事実確認→提案→締めくくり」の4ステップに整理。感情と事実の両面に向き合いながら対応するプロセスを明確化することで、誰でも再現可能な応対力の基盤を築く。 - 心理的ニーズへの配慮が最重要
最も重視されるのは、事実の解決ではなく、お客様の「心理的ニーズ」にどう応えるか。共感・傾聴・寄り添いの姿勢が“収まる”応対を導き、信頼関係の維持と継続利用につながる。
【おすすめ資料】
品質の高いコールセンターの仕組み
~成果と応対、それぞれの品質を確かめる「問い」~
