【マインド編】クレーム応対研修は、何をするのか?

目次
【要約】重要なマインドは「クレームは“収める”ものではなく、“収まる”もの」であると捉えること
クレームをゼロにすることはできない。
クレームは、顧客の期待とサービス提供のギャップから生じるものであり、どれだけ丁寧に対応しても完全に防ぐことはできない。重要なのは、オペレーター個人の責任と捉えず、「起こり得る前提」で業務に臨むことで、精神的な負担を軽減し、冷静に対応できる土台をつくることにある。
クレームは“収める”ものではなく、“収まる”もの
クレームを「早く終わらせたい」と焦ると、お客様の気持ちが無視されたと感じさせ、かえって感情が高ぶる場合がある。クレームは一方的に解決するのではなく、相手の心理的ニーズに寄り添いながら対応することで、自然と落ち着いていくものであるという前提を持つことが大切である。
遠回りに見える応対こそが、実は最も近道である。
クレームに対して丁寧に話を聞き、共感的に対応することは一見遠回りに思えるが、結果的に最短で問題解決に至る手段となる。焦って処理を急ぐことで顧客の怒りを増幅させるよりも、誠実に向き合う姿勢が信頼を生み、スムーズな着地につながる。時間をかける価値のあるプロセスである。
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※本編は“WOWCOMポッドキャスト”をテキスト化した内容です。またサムネイル画像およびYouTube内の画像にはDALL·E 3を使用しています。
クレーム応対研修は、何をするのか?
クレーム応対において「早く終わらせたい」という意識がかえって事態を悪化させてしまうケースは少なくありません。
適切に応対しているつもりでも、お客さまの感情が収まらず、応対が長引くこともあります。
本稿では、クレームを「収めるもの」ではなく「収まるもの」と捉えるマインドセットを中心に、応対時に持つべき視点を整理します。
応対品質を高め、オペレーターの心理的負担を軽減するマインドについてご紹介します。
クレームをゼロにすることはできない。
━━━「クレームを受けた際、メンタルの保ち方や捉え方はどうすればいいのか?」にて、下記のマインドが大切と伺いました。
━━━コールセンター業務において、クレーム応対は精神的に負荷がかかります。その際、オペレーターは、“クレーム”という事象をどのように捉えて対応していくべきでしょうか?
捉え方としては、クレームというものは「オペレーター個人に向けられたものではなく、会社・商品・サービスに対して向けられたものである」という認識を持つことが重要です。
━━━クレームというものは「オペレーター個人に向けられたものではなく、会社・商品・サービスに対して向けられたものである」以外に、クレーム応対において大事にされているマインドはありますか?
いくつかありますが、その中の一つとしてお伝えしているの「クレームをゼロにすることはできない」という考え方です。
当社ではクレームを「“お客さまの事前の期待”と“実際の商品・サービス”との間にギャップが生じたときに発生するお客様の主張である」と定義しています。
お客さまの期待は、十人いれば十通りあります。
どれだけ企業が真摯に努力し、丁寧にサービス提供をしていたとしても、お客さま一人ひとりの感じ方が異なる以上、すべてのクレームを未然に防ぐことは不可能です。
━━━たしかに、感情や背景が人によって異なる以上、クレームを完全にゼロにするのは確かに難しそうです。
サービスや商品の感じ方、期待の大きさといった要素は、企業側がどれだけ努力しても完全にコントロールできるものではありません。
そのため、オペレーターの中には「こうしたクレームが来るのは、自社のサービスが良くないからだ」と思い込んでしまい、会社そのものを否定的に捉えてしまうケースもあります。
しかし、それは必ずしも正しいとは言えません。
企業としては誠実にお客様の声を受け止め、日々改善に取り組んでいたとしても、クレームが起こる可能性は常にあります。
そのため「どれだけ努力してもクレームをゼロにすることはできない」という前提を持つだけでも、クレームに対する向き合い方や受け止め方が変わってくるのではないでしょうか。
クレームは“収める”ものではなく、“収まる”もの
━━━他にも、クレーム応対研修で伝えている、大事にすべきマインドはありますか?
もう一つ大事にしている考え方として「クレームは“収める”ものではなく、“収まる”もの」というものがあります。
どういうことかというと、クレームというものは“オペレーターが「収めよう、早く終わらせよう」とすればするほど、かえってこじれてしまう”ということです。
「【目的編】クレーム応対研修は、何をするのか?」でお話しした「心理的ニーズ」と「物理的ニーズ」にも関係しますが、たとえばお客さまからクレームを受けた際、オペレーターが「早く電話を終えたい」という思いから、具体的な困りごと(=物理的ニーズ)の解決だけを急いでしまうとします。
これは「クレームを収めようとしている」状態です。
そのように対応してしまうと、お客さまは「ちょっと待てよ、何か言うことがあるんじゃないのか」と感じ、「自分の気持ちが無視された」と無意識に受け取ってしまうことがあります。
その結果、かえってクレームがこじれてしまう、という状況が生まれます。
つまり、クレームというのは「こちらから収めるものではなく、適切な応対を通じて自然と“収まっていく”もの」だというのが、当社の考え方です。
━━━クレーム応対研修の中で特に重視されている点を教えてください。
当社のクレーム応対研修では「クレームのメカニズム」について重きを置いています。
具体的には、クレームの構成要素についてお話ししており、クレームとは「心理的ニーズ」と「物理的ニーズ」という2つの要素から成り立っていると説明しています。
「心理的ニーズ」とは、お客様の「この気持ちをどうにかしてほしい」といった感情面の訴えであり、「物理的ニーズ」とは、たとえば「商品が動かない」といった具体的な困りごとを指します。
クレーム応対を適切に行い、ゴールにたどり着くためには、このうち特に「心理的ニーズ」に対して丁寧にアプローチしていくことが重要だとお伝えしています。
━━━例えば「テレビがつきません。どうやったらつくんですか?」という問い合わせに対して、「これはクレームかもしれない…」と思い、まず「説明書の何ページをご確認いただいて…」と案内し、「こうしてみてください」と対応する。これは“収めようとしている”対応ですよね。
そうです。まさに「早くクレームを解決して終わらせたい」という思いから、オペレーターが“収めよう”としている状態です。
━━━では、「テレビがつかない」といった問い合わせに対して、“収める”のではなく、“収まる”ようにするには、どうすればよいのでしょうか?
オペレーターができることは、お客さまの「心理的ニーズ」にしっかり寄り添うことです。
具体的には、まずお客さまに対して丁寧にお詫びの言葉を述べることから始まります。
お客様の温度感にもよりますが、お詫びの一言だけで「全然いいですよ」と受け止めてくださる方であれば、そのまま物理的ニーズの解決に進んでも問題ありません。
しかし、お客さまが強い怒りを抱えている場合、最初にお詫びを述べただけでは怒りが収まらないこともあります。
その場合には、まずお客様のお話にしっかり耳を傾け、「理解しようと努める姿勢」を持つことが重要です。
お客さまのお話を丁寧に聞き、適宜お詫びの言葉を挟みながら、感情ごと受け止めていくこと。それが「収まる」クレーム応対につながります。
━━━つまり、お客さまが怒っている場合でも「怒りを鎮めなければ」と焦るのではなく、「しっかり聞く」ことが大切なのですね。そうすると、クレーム、ひいては怒りというのは“聞いていくうちに怒るエネルギーが減っていく”ものだという理解でよろしいでしょうか?
はい、その通りだと思います。
たとえば、お客さまの心の中に“怒りの水でいっぱいになったコップ”があるとイメージしてください。
クレームの電話が始まった時点では、そのコップは怒りの感情で満たされています。
ですが、オペレーターがしっかりとお客さまのお話を聞き、気持ちに寄り添いながら応対を続けていくことで、徐々にその“怒りの水”が減っていきます。
そうして怒りが落ち着いてくるにつれて、気持ちも和らぎ、結果的にクレームも“収まっていく”という状態になります。
遠回りに見える応対こそが、実は最も近道である
━━━「クレームは“収める”ものではなく、“収まる”もの」。これは知っているか知らないかの差ではありますが、非常に大きな違いですね。
電話応対やクレーム応対に限らず、一般的に怒っている人と話すときでも、まず相手に話をさせるということはよくある応対です。
思いのたけをしっかり吐き出してもらうことで、気持ちが落ち着いていきますし、その後はこちらの話も聞いていただきやすくなり、具体的な解決に向けてスムーズに進めるようになります。
━━━ここ数回にわたってクレーム応対についてお話を伺ってきましたが、「相手は人間である」という視点は、クレーム応対に限らずあらゆる場面で大切なことだと感じました。
特にクレーム応対では、お客さまが「言いたいことがあって」お電話をくださっているわけです。
それにもかかわらず、オペレーターが”収めよう”とすることは、言い換えれば「話の主導権をオペレーター側が握って、状況をコントロールしようとしている」とも言えます。
そうすると、お客さまは「言いたいことが言えない」と感じてしまい、結果として怒りがさらに募り、スムーズに終えられるはずだった応対がこじれてしまう原因にもなりかねません。
━━━オペレーターは決してお客さまを怒らせようとしているわけではないのに、”収めようとする”ことで、結果的に本来解決できたはずの問題を解決できない方向に持っていってしまう。
まさにその通りです。
クレームを早く終えたいのであれば、だからこそ最初にやるべきことは「しっかりお客さまのお話を聞く」「心理的ニーズに寄り添う」ことなんです。
言うならば「急がば回れ」です。
物理的ニーズの解決を急いで最短距離を行こうとすることで、かえって遠回りになってしまう。遠回りに見える応対こそが、実は最も近道であるということです。
━━━つまり、最短距離だと思っていた道が、実は一番遠かったということですね。
そうなんです。一見遠回りに思える道こそが、結果的には一番早くゴールにたどり着く道なんです。
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